2009年11月12日木曜日

インターンに至った経緯~北極圏の分娩室にて~

ノルウェーでの一番の思い出は、現地在住の日本人の友達の出産に偶然にも立会ったことだ。

ISFiTに招待されたときから、ノルウェー滞在中に絶対に彼女には会っておきたいと思っていた。この友人とは、大隈重信の銅像前で一緒に冷奴を食べ、スワヒリ語の授業(早大生のみなさん、この授業かなりおススメです。ゴキブリの物語の翻訳とかするんだよ。笑)を共に乗り切った仲だ。ここまで来て会わないなんてありえない。

ただ、彼女のほうも色々ドタバタしていたために事前のコミュニケーションが上手くいかず、いつごろ会いに行けばいいのかがよく分からないままだったんだよね。時期も迫っていたから、「とりあえず飛行機をとらなきゃ!!」ということで、彼女が暮らす北極圏内(!!)の町へ行く日程は私のほうで勝手に決めた。2009年2月9日。まさか、この日が彼女の出産予定日だったとは(笑)。

空港にわざわざ迎えに来てくれた彼女。人生最大のイベントを控えててんやかんやな時期なのに、いいのか、こんな私なんかがノコノコやって来て。泊まる場所は他に一応確保してあったが、結局彼女の北欧チックな家に厚かましくもお世話になることになってしまった。いや、本当に常識はずれにもほどがあるな、自分。

出産の直前に彼女とは実に様々な話をした。この町は特に何かがあるわけでもないし、冬の北極圏だから日照時間も皆無に近い。おまけに外は寒いわ吹雪くわだから、家の中でまったりするのが主なアクテビティとなるのは当然だ。



彼女の家の近くの風景。 これが近所って・・・北極圏すごすぎ!!



それにしても、出産という大きな大きな決断をするにあたって、彼女が経験した苦労には頭が下がる思いがした。あと数日で誰かのママになるという喜びと不安も、本人に聞くと本当にリアルで鳥肌が立つ。つい1年半前まで一緒にバカをしていた彼女の口からそういった言葉を聞かされると、たかが卒業後の進路が思い通りに行かないくらいで悩んでいる自分が情けないくらいにちゃちい人間だと思えてきた。

自然であろうと運命であろうと、人間の力の及ばないところでうごめいている流れに対しては逆らわず、その流れをせき止めようともせず、また流れの方向修正をしようともせず、とことん最後まで流されてみる。この、「流されてみる生き方」というのは、私がアフリカから一番強く影響を受けた考え方だ。

ほとんどの先進国社会では、自分さえ努力すれば自分で運命を切り開いていける地盤ができている。将来の計画だって、日本みたいに社会がきちんと機能しているからこそできることだ。目標が定まり、その達成のためには何が必要なのかがわかったら、あとは自分の努力と少しの運さえあればOK。勉強も仕事も、貯金なんかもそうだね。予想されるトラブルに関しては、事前に回避の余地が十分あるし。

しかし、アフリカのほとんどの国では、そんなヒョウヒョウとしたことは言ってられない。どんなに一生懸命勉強しても、コネとワイロがなければテストでいい点数はなかなか取れない。一生懸命働いても、給料が支払われる保証なんてこれっぽっちもない。正直に生きていても警察官に気に入られなければ逮捕されるし、せっかくマイホームを建てても暴動や戦争でいつ壊されるか分かったもんじゃない。

ここの人々は、生まれたときからこんな環境で育っている。最初から自分の思い通りにことが進まないなんて分かっている。だからこそ、強すぎる流れに対してはジタバタせずにlet flowするし、どうすることもできないくらい理不尽な状況に対しては、宗教の力を借りることで自分を納得させている。本当にここにいると、人間の小ささを日々感じさせられる。

「流されて生きてみる」こんなに大切な考え方をアフリカで学んできたのに、日本に戻り、就職モード一色の大学に戻ると、(別に就活するつもりは少しもなかったけど)日本人である自分の現実を突きつけられたような思いがした。そうだった。日本では、流れは自分で作りあげ、自分でつかむものだったっけ。どんなにアフリカが好きでも、私は日本人として生きていかなければならないんだという気持ちはある。だから、日本人として生きていく以上、「綿密な計画、そのための努力、トラブルの事前回避」この三つは必須だ。流されるがままに生きていちゃいけないんだ・・・。悶々悶々悶々悶々・・・・。

運命の流れに思い切って乗り、ママになるという生き方を選択した友達に、このタイミングで再会できたのは本当に幸運だった。赤ちゃんを諦めて今まで通りの生活を送れば、自分が思い描いていたような将来が待っていたかもしれない。けれども、彼女はあえて、方向修正をしないで運命の流れに乗る道を選んだ。

更に私を勇気付けたのは、流されてみる決断を下した彼女が、自分とは全然違う誰かさんではないということだった。彼女は、年齢も性別も育った国も同じだし、大学だって一緒に通った人なのである。当然、自分一人の将来のことで悩んでいた私と、赤ちゃんの命や人生をも背負った彼女とでは事情も責任の重さも違いすぎるが、少なくとも、自分と似たバックグラウンドを持った人が「流される」決意をしたことは、悩める子羊にとっては大きな励みになった。

うっしゃー、とことん流されてみるかー。次に進むべき道が決まらなくても、最後まで流されてみれば何かにたどり着くかもしれないし。あのタイミングで彼女に再会していなければ、突然「2ヵ月後にパリに来てインターンを始めてくれ」と言われても「大学があるので無理です」と断っていただろうし、卒業4ヶ月前で休学などという、かなり常識から逸脱した決断はしていなかっただろう。

彼女と、彼女の彼と3人で散歩に出かけた。少し疲れたんだね。彼女は帰宅後、ぐっすりと眠ってしまった。その間、今度は彼と私が長々とおしゃべりをした。午後3時なのに外は真っ暗で、一面中の銀世界だけが静かに広がっている。



お散歩タイム。



と、彼女が突然、トイレに行くために起きてきた。トイレから出てきた彼女は、なんだか顔色が少し悪い。「なんか破水したっぽいんだけど、よく分からないんだよね・・・」

この瞬間を境に、今まで穏やかそのものだった赤ちゃんのパパが豹変した。3人の中の誰よりもオロオロし、ナーバスになり、しまいには妊婦に怒られる始末。この人、分娩室に入っても正気を保っていられるのかな。若干心配になる。この時、一番肝が据わっていたのは彼女だった。その後、彼の家族と一緒にみんなで病院に行った。どうやら本当に破水したようだ。ところが、なかなか陣痛が始まらない。とりあえずその日は、彼女だけが病院に残ることになった。平然を装っているものの、パパは既にオロオロの極みに達している。


早く出ておいで~。



翌日、私は昼前に病院に行った。夜のうちに陣痛促進剤を打たれた彼女は、私が到着したとき、苦しみの真っ只中にいた。あーーーーーー、頑張れ!!!と心の中で叫びながら、手を握ることくらいしかできない自分に腹が立つ。それにしても、この経験のお陰で人生観が180度変わったよ。いやー、母ってのは強い。うちのお母さんにも心から感謝だ。

朝は一人で畑へと向かい、日中に産気づいて、夕方には生まれたばかりの赤ちゃんと一緒に帰宅する・・・なんていう女性が、アフリカの村だと今でも結構いるみたいだけど・・・。彼女たちアフリカの母ちゃんは、文句なしにアッパレです。


強く美しいアフリカの母。



ウガンダ北部のママ。


これが自分にとってはあまりにも強烈な経験であったため、病室で思わず、生まれてくる赤ちゃん宛に手紙を書いた。よっぽどお腹の中の居心地がいいのか、或いは極寒の冬の北極圏に出てくるのがイヤだったのか。陣痛は当初の予想をはるかに超えて長引き、かなりの難産となってしまった。そうこうしている間に、分娩室へ運ばれる妊婦さん。付き添うのは、とっくの数時間前に平常心をすっかり失ってしまったパパと、遥か遠くは極東からノコノコやってきた野次馬の私。こういう状況で分娩室にまで入るだなんて、本当に私は非常識でした。。。

ところで、ノルウェーの公立病院は、素晴らしいの一言に尽きるよ。日本の病院のことはよく分からないから比較できないけど。院内の雰囲気がとにかく温かいし、ご飯だっておいしそう。ゆったりした分娩室にはクラシック音楽が流れ、ソファからバスタブまで何でも揃っている。しかもタダ!!出産・入院費用は全部国が負担してくれるんだって。すげーな、ユートピア。


日本の公立病院の分娩室も、こんな感じなのかな?
知っているが人いたら教えてください。






赤ちゃんに会えるかなーと期待していたけれど、ギリギリのタイミングで会えなかった。予約していた船の出航時間が迫り、この町を出なくてはいけなかったのだ。『後ろ髪をひかれる思い』というのは、まさにあの心情のことを言うんだね。様々な思いを胸に抱きながら、深夜の港へと向かっていった。

早朝、パパから電話があった。船が出港した3時間後、無事に元気な女の子が生まれたんだって!!おおおおおおおよく頑張った!!!こっちまで涙が出てくる。電話越しの彼は、おそらく自分でも何を言っているのか分かっていなかっただろう。声は涙声だったし、途中途中、ノルウェー語で何かをまくしたてていた。多分、誰に電話していたのかもよくわかっていなかったんだと思う。とにかく、パパも本当にお疲れ!!

この電話の後すっかり興奮してしまった私は、再び眠りにつくことができなくなってしまった。本を読む気分にもなれなかったので、その後数時間は、ただひたすら日が昇るのを待っていた。冬の北極圏は、日の出がやけに遅い。待ちに待って、ようやく出てきた太陽は・・・何ていったらいいんだろう。言葉にすると安っぽくなっちゃうから、写真でどうぞ。



赤ちゃん誕生の知らせを聞いてから数時間後。ようやく、北極圏にも朝がやってきました。


おおおおお太陽がついに見えました!!

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