2009年10月7日水曜日

世代交代の儀式

ここに来る前から、西アフリカには、とにかく伝統的なお祭りや踊り、信仰や儀式が今でも盛んに行われているイメージをずっと抱いていた。もっとマニアックな言い方をすると、伝統的なアニミズムの世界―神聖で、スピリチュアルな価値観が今でも生活に深く根付いている社会―を、西アフリカにはある意味で期待(?)していた。もともと私がアフリカに興味を持ち始めたのも、この地域の仮面文化の影響が大きいと思う。

別に私は人類学者ではないが、いつか西アフリカの精神的世界について、徹底的に勉強やフィールドリサーチをしてみたい。アフリカの伝統には、今の私たちが学ぶべき知恵がたくさん詰まっているからだ。

先週の土曜日、アビジャン郊外にあるAkouai Santéという村で、5年に一度開かれるというLa Fête de la Génération(世代交代の儀式)に連れて行ってもらった。というか、連れて行かれたという表現のほうが正しいかもしれない。金曜日の夜突然、とある友人から電話があり、「よし、あしたは儀式があるからナツノも来い!!いいな、朝9時に迎えに行くからな、じゃーまたな!!」とだけ一方的に言われて電話を切られたからだ。翌朝、結局迎えは10時にならないと来なかったことなど、今さら説明するまでもないと思うが。

まず村に着いて、煙を炊きながら歌い踊る、顔にペイントを施した半裸集団に遭遇した。「彼らは最終リハーサルに挑んでいるんだよ」との説明を受けた。そのそばでは、同じようにペイントをしてもらって嬉しそうなちびっこ達が走り回っていたり、大量の料理に忙しい女性陣がいたり、かと思えば、昼間からビール瓶を何本も開けているおじさん集団もいたりする。雰囲気的には、日本の田舎の自治会が主催している夏祭りのような感じだ。


10年、15年後の世代交代の儀式の主役は彼らかな?


昼ご飯が振舞われる。今日は特別メニューなので、アチャケも2種類あった。アチャケとは、キャッサバでできたクスクスのような食べ物だ。イボリアンたちの大好物。世代交代の儀式メニューでは、マグロの煮込みスープと一緒に食べた。かなり辛くて本当においしい。

そうこうしている間に、例の煙炊き集団が雄たけびをあげながらやって来た。どうやら儀式が始まったようである。すぐに食べ終え、村の大通りとやらに繰り出す私たち。大通りは見物人でごった返していた。

見物人もぞくぞくと集まってきます。


小さな見物人は、屋根の上にまで!!

踊りは激しいです。もう、その場にいるだけで暑くなる。


この儀式は、20歳から28歳くらいまでの村人(男性のみ)から選ばれたリーダーが主役だ。伝統的な社会では、このリーダーは首長となるべく様々な経験を積み、また、一つの世代のリーダーとしての特権が与えられるらしい。一つの世代とは、5年に一度のこの儀式で世代をバトンタッチされる人々の総称だ。毎5年ごとに、世代は変わる。リーダーとして選ばれるための条件は、たくさんあるが、最も重要なのは「落ち着いていて、穏やかであること」らしい。

この儀式は1週間ほど続く。私が見学したのはそのクライマックスの部分であったが、儀式の初日に、その年の儀式で世代をバトンタチされる一つ下の世代(つまり、10代後半から20代前半にかけての男の子たちで、5年後に世代のバトンを渡されるグループ)の中からリーダーが選ばれる。リーダーは、それから5年間の間、儀式に向けて準備をするのだ。私が村に到着早々遭遇した煙炊き集団は、5年後の世代のメンバーなんだって。

村の広場には、ハデハデの服を着ているおじさんグループがいくつかあった。それぞれ椅子に座り、楽しそうにおしゃべりしている。その奥にはおじいさんたちもいた。村の年配者は、各世代ごとにまとまって、毎回儀式を見物するようだ。

各世代には名前がつけられる。例えば、今年バトンが渡される世代の名前はTchagba Assoukrouっていうらしいよ。意味を聞いたけど、誰もよく分かっていなかったから、結構そんなものなのだろう。

と、ここまで説明を受けたと思ったら、ハデハデおじさんたちが、世代ごとに固まって歩き出したではないか。見物人もドドドドドーーーーーンと、まるでケニアで見たヌーの群れのように動き出した。いよいよ始まるらしい。


ハデハデな長老たち。


「あ、あそこだ!!いいかいナツノ、とにかく走れーーーーーー」と言われ、人ごみの中を突っ走る。しかし、その人ごみを構成する一人ひとりがそれぞれに突っ走っているため、もう何がなんだか分からなくなる。暑い。じめじめしている空気が恨めしい。

と、そのとき。

歌舞伎の白いカツラのようなものを被った男が、(たぶんニセ物だとは思うけど)刀を振りかざして雄たけびを上げているではないか。周りには、大量の半裸・顔ペインティング集団。みんなワーワー叫び、太鼓のビートが激しく轟く。あ!!白カツラの男がジャンプして、誰かに飛びかかった!?さっきの煙炊き集団はまだ煙を炊いており、中には人形を抱えている人もいるではないか。しかも何気に人形がかわいい!!なんだこれ!!なんだかよく分からないけど、戦争なのか世代交代なのか、もしかして世代を争って戦争でもしているのか、なんかもうカオスだけど、やばいぞこれ!!見物人のおばちゃんのパワーもこりゃまたすごい・・・おばちゃんの雄たけびも、男たちのそれに負けていない。あぁ、私も負けないように頑張らないと、歌舞伎の白カツラが見えなくなっちゃう、ああ、ああ、ああーーーーーーーー!!!!

と、私がボケっとしてる間に、儀式の前半は終わった。


意外とかわいい人形。


半裸集団は汗びっしょりだ。どうやら、あの歌舞伎のカツラ男が、今回の世代のリーダーらしい。え??だって、リーダーになるには落ち着いていて穏やかな人であることが条件なんじゃないの?アイツ、思いっきり暴れてましたけど。

しかし村人曰く、リーダーとは、普段は穏やかでも、儀式の時には激しくないといけないらしい。激しさを併せ持っていてこそ、男なんだって。かっこいいね。

リーダーが入っていった家には、見物人が押し寄せていた。みんな興奮している。リーダーすごいね、大スターだよ。家の玄関口には、出待ちまでいるじゃないかい!!

今回の儀式の主役。


当然その家では、おばあちゃんとおばさん数名が、玄関のところで見物人を制していた。私も、外国人である特権を使って中に入ろうとしたけれど、たとえ外国人だろうと特別扱いはしないらしく、結局入れてはもらえなかった。残念。

あまりにも激しすぎたので、なんだか疲れた。私は少し寝ることにした。ザコの上で寝ているおばちゃんに、少しスペースを分けてもらって昼寝開始・・・・が、しかーし。

おばちゃんのイビキがすごすぎて、うつらうつらする程度で終わってしまった。何でも食べ、どこでも寝られるのが自分の長所だと思っていただけに、こんなおばちゃんのイビキごときで眠れなくて悔しかった。

そうこうしているうちに、後半が開始。後半では、3人の女性がリーダーを先導していた。巫女さんみたいな役割なのかな?3人によって先導される主人公・・・なんだか、モーツアルトの『魔笛』のような構成だ。パッパゲーノみたいなお調子者ならそこら中にいたから、完璧だね。

3人の巫女さんみたいな女性。

なかなか素敵なペインティング。

お調子者はどこにでもいるね。


後半は、もう人ごみの中を突進していく元気も残っていなかったので、遠くから眺めていることにした。相変わらず激しい。後半は、ハデハデ服の往年の世代の周りをリーダーがぐるぐるまわったりと、戦闘(?)の中にも儀式的要素が組み込まれていた。しかも・・・・長い。軽く40分間は、その場にいたみんなが必死で動き回っていたたと思う。あふれ出すパワー。鳥肌が立った。だが、前回同様、私が状況を飲み込む前に終わってしまった。

時計を見たら、もう4時半をまわっていた。その後村の人々は、夜までパーティをするんだって。私たちはアビジャンに帰らなくてはいけなかったため、その場を去った。あっという間に終わった午後だった。

アフリカの「儀式」に参加するのは今回が初めてではなかったが、毎回思うのは、この大陸の人々は、肉体的なパワーだけでなく、精神的なエネルギーの爆発がハンパないということだ。一種のトランス状態なのだが、彼らを見ていると、本当に魂や悪霊が体に乗り移ってしまったのだと思わずにはいられない。「今、この人の体を動かしているのは○○の神だ」と言われても、素直に「ああ、そうなんですね。だからあんなふうに動くんですね」と納得できる。不思議だ。

一度、周りの人が次々と心霊に乗り移られるという、非常にレアな経験をしたことがある。ザンジバル島で参加した、カバキという儀式での話だ。もともとスピリチュアルなコモロ諸島(マダガスカルの北に位置する島国。政治的にものすごく荒れている。)から伝わったこの儀式は一晩中続いたが、心臓がドキドキしっぱなしだった。幼稚に聞こえるかもしれないが、自分がいつ心霊に乗り移られるのかが怖くて仕方なかった。この経験については、後でまた詳しく書こうと思う。

また5年後、この世代交代を見るために、この村に戻って来たい。



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